「乾さんの現在のお仕事について聞かせてください。」
乾様 :
「はい。私の所属している商品開発研究部では、新製品開発、既存製品のリニューアルをはじめ、その基盤となる醸造技術の開発を行なっています。
私たちは、原料の選択から、仕込、醗酵工程における醸造条件の検討、酵母の選択など、香味づくりに関与する課題を抽出し、香味との関連性を明確にしていくことで、多面的、総合的に、美味しさの創造、実現を目指しています。」
LECOジャパン:
「ビールにもいろいろな種類がありますが、ビールの美味しさの秘密はどこにあるのでしょうか?」
乾様 :
「ビールの美味しさのひとつは、ホップ由来の爽快な苦味と独特の香りで、それは不可欠な存在であると思います。
ホップ由来の香り成分で最も重要な成分は、ホップ精油に含まれるテルペン類であるリナロールと考えていますが、リナロール以外の複数の成分がビールホップ香の特徴要因となっている事も見逃せません。
リナロール以外の成分を把握し、使用するホップ品種や醸造条件によって、これらの成分を制御することができれば、ビールのホップ香を設計するうえで重要なポイントになりますね。」
LECOジャパン:
「その他の成分についてはもう十分に把握されているのですか?」
乾様 :
「いえ、今までは技術的な問題があって、まだその分野における情報は不足していると言わざるを得ません。
ですので、新しい実験系を構築する必要があると考えました。」
LECOジャパン:
「と言いますと?」
乾様 :
「今回の研究で言いますと、異なるホップ品種を用いたビールのホップ香の特徴に寄与する要因成分を把握するため、「食品メタボロミクス」の解析手法を取り入れました。すなわち、GC×GC-TOFMSを用いた網羅的成分解析と、ビールホップ香の特徴に関する定量的官能評価を実施し、両者の結果を多変量解析により関連付けをし、その結果から、ビールホップ香の違いを説明する要因成分を抽出する事を目指しました。そして本研究において、分析対象化合物を固定しないノンターゲット分析は必須であり、
ビールのような多成分系において、LECOさんのGC×GC-TOFMSによる網羅的成分解析は、大きな威力を発揮すると期待したのです。」
ビールホップ香の特徴に関する定量的官能評価を実施し、両者の結果を多変量解析により関連付けをし、その結果から、ビールホップ香の違いを説明する要因成分を抽出する事を目指しました。
そして本研究において、分析対象化合物を固定しないノンターゲット分析は必須であり、ビールのような多成分系において、LECOさんのGC×GC-TOFMSによる網羅的成分解析は、大きな威力を発揮すると期待したのです。」
LECOジャパン:
「それは有難うございます!ちなみに弊社の装置のどのような特徴に期待いただいたのですか?」
乾様 :
「LECOさん独自のクライオフォーカスを用いたGC×GCとTOFMSの組み合わせに加え、deconvolution機能によるピーク処理が可能であることは、分離度、感度において、複雑なマトリックスを示す多成分系の成分分析を一挙に検出できる分析装置としては、理想的な組み合わせであると感じました。」
LECOジャパン:
「そうすると今回のような研究内容に求められる装置性能という点ではGC×GC-TOFMSのポテンシャルの高さが重要なポイントということですね。」
乾様 :
「そう言えますし、今回の研究成果は今後の研究の発展について大きな期待を抱かせてくれました。」
LECOジャパン:
「今回の研究成果については国内外の学会でも発表され、大変好評ですが、現在の食品分析における共通の問題点はどのような事が考えられますか?」
乾様 :
「香味開発を目的に成分分析をする場合、官能との関連付けができない成分分析には全く意味がないと思っています。
網羅的成分解析は、官能的意味合いの関連付けができてこそ価値のあるものになると考えており、信頼できる定性的官能評価(QDA:Quantitative Descriptive Analysis)を実施することが非常に重要ではないでしょうか。」
LECOジャパン:
「この研究によって得られた新しい知見、同じような研究をされている方に与える影響についてはどのようなものがあるとお考えでしょうか?」
乾様 :
「匂い嗅ぎは、官能に寄与する成分の探索にとって有効な方策です。
しかし、閾値以下の成分が、他の成分と共存することで、官能的に重要な影響を与えることも知られており、このような成分の探索や推定には、GC×GC-TOFMSを用いた網羅的成分解析が必須手段になると思っています。
そして、多変量解析を通じて官能試験と機器分析による網羅的化合物探索の結果の関連性を評価できることがわかりました。
これは非常に重要な知見だと思いますし、多くの方がこのような手法を使っていくのではないでしょうか。」
LECOジャパン:
「今後の励みとなるご意見をありがとうございます。
それでは最後に、今後の目標についてお聞かせください。」
乾様 :
「ユーザーの立場から、この分析装置を最大限有効活用するためのアプリケーションのアイデアを提案し、LECOさんのサポートによりそれが実現可能かどうかを検証していきたいと思っています。」
LECOジャパン:
「本日はお忙しい中、貴重なご意見をありがとうございました!
今後の益々のご活躍を期待しております。」
【今回のインタビューを振り返って/分析側の立場から】
良い成果が得られるかは、装置の性能だけではなく、むしろ実験の組み立て方によって決まる要素が大きい。
今回の共同研究に用いたサンプルは、熟慮された抽出方法によるもので、GC×GC-TOFMSの性能を試す非常に良い質のものであり、官能試験との組み合わせなどデータを多角的に評価できた事は、より奥深い考察に繋げられた大きな理由の一つであろう。
結果的に、今回の一連の研究では、このPegasus4D GC×GC-TOFMS応用法の良い手本となるワークフローが構築できたのではないだろうか。